顧客の声をどれだけ活かせていますか?
顧客満足度の向上、商品・サービスの改善、さらには売上拡大――。これらすべての出発点となるのが「VOC(Voice of Customer)」です。
VOCとは、文字通り「顧客の声」。しかし、単にアンケートを集めるだけでは意味がありません。重要なのは、その声を正しく集め、分析し、社内で活用していく仕組みを持つことです。
本記事では、VOCの意味から活用方法、成功事例、NPSとの違いまでを、マーケティングやカスタマーサポートの現場目線で分かりやすく解説します。
VOCとは?意味と基本概念
VOCとは、「Voice of Customer」の略で、日本語では「顧客の声」と訳されます。これは、顧客から寄せられる意見・要望・苦情・感想などを総称したものです。
広い意味では、直接的なフィードバックだけでなく行動ログやレビュー・SNS投稿なども含めた“顧客の反応”すべてがVOCにあたります。
たとえば以下のような情報が、VOCとして収集・活用されます:
- 商品に対するクチコミや評価
- コールセンターへの問い合わせ内容
- アンケートでの要望や満足度スコア
- SNSやブログでの投稿内容
- Webサイトの離脱理由やUIに対する不満
企業がこれらの情報を収集・分析し、商品改善やマーケティング戦略に活かすことで、顧客満足度の向上、LTV(顧客生涯価値)の最大化につながるのです。
📌 VOCは「企業と顧客のギャップ」を埋めるツール
企業側が「良い」と思って提供しているサービスでも、実際の顧客には届いていない――。こうしたズレはよくあります。
VOCは、そのギャップを浮き彫りにし、顧客視点での改善を可能にする「羅針盤」としての役割を果たします。
VOCが注目される理由|ビジネスへのメリット
近年、多くの企業が「VOCの活用」に注力しています。その理由は、単に顧客満足度を上げるためだけではありません。VOCは、ビジネスの成果に直結する強力な武器だからです。
ここでは、VOCが注目される3つの主要な理由をご紹介します。
✅ 1. 商品・サービス改善の「生きたヒント」になる
顧客は日々、サービスや商品に対してリアルな感想を持っています。
「ここが使いにくい」「こうだったらもっと便利なのに」といった声は、企業側では気づけない盲点であることが多く、改善のヒントが詰まっています。
たとえば、JCBではVOCを参考にチャットボットを修正。結果として正答率を80%まで向上させ、効率化を実現したいう事例もあります。
VOCは、コストをかけた市場調査よりもリアルで具体的な改善材料となるのです。
✅ 2. 顧客満足度の向上とリピーター獲得に直結する
VOCを活用して改善を繰り返すことで、ユーザーは「自分たちの声が反映されている」と実感できます。
この体験が、顧客ロイヤルティを高め、リピーターや推奨者(=ファン)の獲得につながります。
さらに、NPS(ネット・プロモーター・スコア)などの指標で定量的に測れば、改善の成果も可視化できます。
✅ 3. 社内の意思決定を後押しする「説得力のある材料」になる
経営層や他部署に施策を提案する際、「顧客の声」という根拠があると非常に強力です。
社内の議論では、どうしても主観や経験論が先行しがちですが、VOCを活用することで客観的で納得感のある意思決定を促せます。
たとえば、「価格が高い」という声が解約者の80%以上なら値下げを検討する根拠になりますし、「サポート対応に満足した」という声が多ければ、現場のモチベーション向上にもつながります。
VOCの収集方法|顧客の声を集める7つの手段
VOC(顧客の声)を活用するための第一歩は、「適切に集めること」です。
とはいえ、VOCはアンケートだけで集まるものではありません。むしろ、日常業務の中にこそ貴重なヒントが埋もれています。
ここでは、実務でよく使われているVOCの収集方法を7つに整理してご紹介します。
✅ 1. アンケート(定量・定性)
最も基本的な手法です。
顧客満足度(CSAT)やNPSなどの定量調査に加え、「自由記述式」での意見・要望も収集できます。
- メールやアプリ経由のアンケート
- サービス利用直後のフィードバック
→ 改善優先度や満足度を把握しやすい
✅ 2. カスタマーサポート・コールセンターのログ
問い合わせ内容やクレームは、顧客の本音が詰まった宝の山。
FAQやマニュアルにない問題点を拾えるだけでなく、「感情」や「ニュアンス」まで読み取れます。
- よくある問い合わせの傾向
- 言葉のトーン(不満/感謝)なども分析対象
✅ 3. SNS・レビューサイト・掲示板
SNSや口コミサイトでは、顧客が率直な意見を投稿しています。
ときには公式チャネルよりも鋭い指摘やアイデアが飛び出すこともあります。
- Twitter(X)、Instagram、YouTubeのコメント欄
- AmazonやGoogleマップのレビュー
- 価格.com、食べログ、掲示板など
✅ 4. NPS(ネット・プロモーター・スコア)
「このサービスを他人に勧めたいと思いますか?」という質問に0〜10で回答してもらう調査。
その数値と自由記述の理由部分から、顧客の熱量や改善ポイントが浮き彫りになります。
- 推奨者(9〜10点)・中立(7〜8点)・批判者(0〜6点)に分けて分析
- 世界的に使われている指標で他社との比較がしやすい
✅ 5. 営業・接客担当者の現場ヒアリング
顧客と直接会話している営業や店舗スタッフは、リアルタイムのVOCを最もよく把握している存在です。
- 商談後の雑談に出る「本音」
- 来店客の反応・表情・つぶやき
→ テキスト化・報告体制の整備が重要
✅ 6. Webサイトやアプリの行動ログ
「言葉」ではなく「行動」からVOCを読み取る方法です。
たとえば「このボタンがクリックされない」「途中で離脱している」といった行動は、無言のフィードバックと捉えることができます。
- ヒートマップ、Google Analytics、ユーザー行動分析ツールなどで可視化可能
✅ 7. ユーザビリティテスト・UX調査
ユーザーがサービスを操作する様子を観察することで、「分かりにくい」「面倒くさい」などの隠れた不満を発見できます。
- 新規機能のリリース前後に行うと効果的
- テスト参加者の発言をテキスト化してVOC化する企業も
VOCの活用方法|社内展開〜施策への落とし込み方
VOCは、集めるだけでは意味がありません。
本当に価値を生むのは、「分析して気づきを得ること」、そして「社内の改善施策につなげること」です。
ここでは、VOCを活用するための基本的な流れと、社内での展開方法を解説します。
✅ VOC活用の基本フロー
- 収集:各チャネルから顧客の声を集める
- 分類・整理:ジャンル・トピックごとに仕分け(例:価格・使いやすさ・サポートなど)
- 分析:頻出ワードの傾向やネガポジ判定、NPSとの相関などを行う
- 示唆の抽出:「〇〇に不満が多い」「△△を評価する声が多い」といった洞察を得る
- 施策化・社内共有:現場改善・商品開発・プロモーション施策に落とし込む
✅ 部署別・VOCの活用事例
- マーケティング部門
→「想定ターゲットと実際のユーザー像のズレ」や「訴求の刺さり方」をVOCで検証
→ 広告クリエイティブの改善、LPの最適化に活用 - カスタマーサポート
→ 問い合わせ内容から、ヘルプページやFAQを強化
→ 対応の「属人化」防止、ナレッジ共有にも役立つ - 商品開発・UX担当
→ ユーザビリティテストやレビューをもとに機能改善
→ 顧客視点で「開発優先順位」を決める材料に
✅ VOCを社内で“活かされる情報”にするコツ
VOCは関係部署にただ共有するだけでは、施策に結びつきません。
以下のような工夫を取り入れることで、社内で“動く情報”になります。
- 週次/月次でVOCサマリーをレポート化
→ グラフやタグ分類などで視覚的に理解しやすくする - 社内ミーティングで定期的にVOC共有の場を設ける
→ ただの報告で終わらせず、「どう活かすか?」の議論をセットにする - ダッシュボード(BIツールなど)に組み込む
→ 各部署が“リアルタイムで顧客の声”を見られる仕組み化
✅ VOCは“アクション”につなげて初めて意味がある
集めた声を、ただ「ありがたいご意見」として終わらせていませんか?
VOCの真価は、それをもとに改善し、成果が出たときに発揮されます。
小さな一歩でも、「顧客の声から〇〇を変えた」という成功体験を社内で共有することで、全社的なVOC活用文化を育てることができます。
VOC活用の成功事例3選
ここからは、実際にVOCを活用して成果を出した企業事例を3つご紹介します。
いずれも「顧客の声を拾い上げ→分析→改善」というプロセスを通じて、数値的な効果や業務改善を実現しています。
✅ 事例①:JCB|VOCを活用し、チャットボットの正答率が80%に
コールセンターの通話内容をテキスト化し、AIで分析。マンパワー依存だった回収・集計業務を自動化し、オペレーターの対応品質向上とFAQサイトの改修を実現。
🎯 ポイント:
近年は、AIを活用することで通話内容のテキスト化が容易になってきました。
✅ 事例②:ネスレ日本|SNS分析による潜在ニーズの把握とペルソナ作成
ソーシャルリスニングでSNS上の顧客声を収集。データを基にペルソナを作成し、マーケティング戦略や商品開発に反映。
🎯 ポイント:
SNSのコメントもVOCとして活用可能。
NPSやCSとの違い|VOCとの関係性とは?
VOC(Voice of Customer)と似た用語としてよく出てくるのが、「NPS(ネット・プロモーター・スコア)」や「CS(顧客満足度)」です。
どれも「顧客の声」に関係していますが、それぞれ役割や使い方が異なります。ここでは、それぞれの違いと関係性を整理しておきましょう。
✅ VOCは“総称”、NPSやCSは“指標”
- VOC:顧客のあらゆる声(定量・定性)を広く含む概念
- NPS:「他人に勧めたいか?」という観点で、ロイヤルティを数値化
- CS(顧客満足度):利用後の満足感を0〜100点などで評価
つまり、VOCは“データの源泉”であり、NPSやCSはそこから得られた声を「定量的に測るツール」として使われます。
✅ NPSとは?VOCの一部を数値化する指標
NPSは、以下のような質問を顧客に投げかけて算出されます。
「この商品/サービスを友人や同僚にどのくらいすすめたいですか?」
(0〜10の11段階で評価)
そのスコアをもとに、以下の3層に分類:
- 9〜10点:推奨者(Promoters)
- 7〜8点:中立者(Passives)
- 0〜6点:批判者(Detractors)
NPSは、ロイヤルティの強さを可視化する指標として、企業のKPIにもよく使われます。
さらに、自由記述欄で理由を聞くことで「VOCの質的分析」も可能になります。
✅ CS(顧客満足度)とは?「いま」の満足度を測る指標
CSは「サービス利用後にどれだけ満足したか?」を尋ねる、もっともシンプルな指標です。
例:このサービスにどのくらい満足していますか?(5段階または100点満点)
CSは現在の満足度を示すものであり、過去の体験に対する評価と言えます。
一方、NPSは「他者への推奨意向」を問うため、未来の行動予測として使われるケースも多いです。
✅ それぞれの組み合わせがベスト
- VOCで「顧客の本音」を拾い上げる
- NPSで「ロイヤルティの高さ」を測る
- CSで「直近の満足度の変化」を把握する
このように、各指標を組み合わせて分析することで、より立体的な顧客理解が可能になります。
VOCを活用する際の注意点とよくある失敗例
VOC(顧客の声)は非常に有用な情報源ですが、活かし方を誤ると「ただの意見集め」で終わってしまうことも少なくありません。
ここでは、VOCを活用する際によく見られる失敗例と、それを防ぐためのポイントを紹介します。
❌ 1. クレーム処理で終わってしまう
VOCというと「クレーム=ネガティブな声」ばかりに注目してしまいがちです。
もちろん、不満の声に対応することは重要ですが、それだけで終わると施策の前向きな改善にはつながりません。
✅ 対策:
ポジティブな声も分析対象に含め、「何が評価されているのか」も同時に把握すること
❌ 2. 収集だけして分析・活用されない
「アンケートはとったけど、読みっぱなし…」というケースは非常に多くあります。
集めたVOCが“どこかのフォルダに眠っているだけ”では、現場も顧客も何も変わりません。
✅ 対策:
VOCの集計・分類・可視化のルーチンを作り、分析結果を社内のKPIや改善会議に組み込む
❌ 3. VOCを「担当部署だけ」で抱えてしまう
VOCはカスタマーサポート部門だけが見るもの、と思われがちですが、本来は全社で共有すべき資産です。
部署ごとに情報が閉じてしまうと、組織横断的な改善が進みません。
✅ 対策:
VOCダッシュボードや月次レポートを用意し、マーケ・開発・営業・経営層まで共有する仕組み化を目指す
❌ 4. 「声が大きい少数意見」に振り回される
ときに強い言葉や感情的な声に引っ張られて、本質的な課題からずれてしまうこともあります。
✅ 対策:
定量的なデータ(頻出ワード、スコアなど)と定性的な声のバランスを取りながら判断する
❌ 5. 改善アクションが遅すぎる/見えない
「お客様の声をもとに改善中です」というお知らせだけで、具体的な変化が見えないと顧客の信頼は低下します。
✅ 対策:
「◯月◯日より、〇〇を改善しました」など、**顧客に伝える“フィードバックループ”**を意識する
VOCは、“活用しきった者だけが手にするヒント”とも言えます。
だからこそ、仕組み化・社内連携・スピード感がカギになります。
まとめ:VOCは「聞くだけ」で終わらせず、価値あるアクションへ
VOC(Voice of Customer)は、単なる“顧客の意見”ではなく、ビジネスを前に進めるためのエンジンです。
重要なのは、声を集めることではなく、それをどう活かすか。
「聞いて終わり」では、顧客の信頼も、社内の改善意識も高まりません。
✅ VOC活用のポイントをおさらい
- 幅広いチャネルから顧客の声を集める
- 定量と定性、両方の視点で分析する
- 社内で共有し、改善施策に落とし込む
- 効果を測定し、次の改善へつなげる
- 顧客にも改善結果をきちんと伝える
VOCの活用には、少し時間も手間もかかります。
それでも、「この会社は、ちゃんと私たちの声を聞いてくれる」と思ってもらえる企業は、着実にファンと信頼を育て、売上とLTVの向上を実現しています。
まずは、小さな一歩から。
アンケートに目を通す、レビューを整理してみる、社内に共有する――そんなシンプルな行動が、顧客中心の企業文化づくりの第一歩になります。
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